キラキラしてきれい、やわらかい波の照り返しと子どもたちの笑い声、空の青さ。
今日はレンタカーで海までお出かけ。カームを左手に見て、チョコボファームを突っ切ってたどりついた極東のビーチ。穏やかな風と天気に、ティファは嬉しそうに微笑んだ。家族でこんなふうに出かけたことなかったから。
「魚がいるかな?」と車をおりた子どもたちは波打ち際まで駆け出していった。水際に魚はそうそういないものだけど、と思いつつ車の助手席をティファもおりた。クラウドはすでにおりていて、気持ちよさそうに背伸びしている。ここから見る彼の髪の毛は太陽の光で透き通って見えたりする。
「いい天気だな」
「うん、よかったわ」
だろ?なんていって彼は満足げにうなずいた。「絶対に気に入ると思ったんだ。だから連れてこようと思ってた」
たしかにここはとても素敵な場所だ。彼が仕事中に見つけたらしいここは、ひと気がなくて小さなビーチだったが、砂が白く細かい、穏やかな場所だった。ピクニックするには最適な場所だと思われた。
――――――――ねえ、二人とも早くこっち来なよ。
子どもたちの声にうながされて、私たちは波打ち際まで走り出した。細かい砂に何度か足をとらわれそうになって、すこし笑った。
波打ち際の水は本当にきれいだった。私たちがつくころには子どもたちは靴をすでに脱いでいて、水に足を漬けている。デンゼルが走りよってきて、心底楽しそうに笑った。
「まだね、水、少し冷たいよ」
「まだ五月だもの。風邪ひくわよ」
「ひかない」
ひくわよね、とクラウドのほうを見ると、彼も靴を脱いでいるところだった。
「クラウド」
「え?」
「話、合わせてよ」
「え?」
「風邪、ひくわよ」
「ひかない」
思わず彼の背中を数回叩いた。これじゃ子どもたちが風邪ひいちゃうじゃない。彼は少し痛そうだったけど、あまり容赦しようと思わなかった。
そのとき、少し離れたところにいたマリンが突然叫んだ。
「デンゼル!魚がいる!」
「どこ!?」
するとデンゼルは弾かれたかのようにマリンのところに駆け出していった。水しぶきをあげて走っていく様を見て、本当に元気になったと実感する。楽しそうな声は、今日はデンゼルだけでなく、マリンも。クラウドが帰ってきてからの明るさは、うちに光が差したかのようだ。
「なあ、少し痛かったんだけど」
「当たり前じゃない、叩いたんだから」
背中をさすっているクラウドの背中を、私はもう一度叩いた。
「ああ、痛いってば」
「知ってるわよ。でも話を合わせて欲しかったわ。子どもたちが風邪ひいたら、クラウドのせいよ」
「ひかないよ」
また叩こうとあげた私の手を、クラウドはひらりとかわして水際まで走っていく。
「絶対!風邪、ひかない!」
こちらを振り返って彼は笑った。やはりここからも、彼の髪は光で透き通って見える。
私はつい最近マリンが言った言葉を思い出した。
『クラウドが笑うと、ひまわりが咲いたみたい』
彼が帰ってきてしばらくになる。本当にここ最近は暗い影が消えてきたようで、昔を思い出すこともあるらしいけど前みたいに彼は脆くない。そんな中マリンが言った言葉だ。
ひまわりが咲いたみたい。素敵な描写だ。太陽の強い光で咲く黄色い花。たしかに彼の髪はきれいな金髪だし、笑ったときの顔は整っている。でも目の前で手を振っている彼は、私がそんなこと考えてるだなんてこれっぽっちも知らない。
「ティファも早く!」
結局、私は靴を脱いで走り出した。足をつけた水は、デンゼルの言うとおりまだ冷たかった。
「冷たい」
「まだ五月だからな」
「風邪・・・」「ひかないよ」
ひいたらどうするの?と思ったが、彼はやはり笑っていた。
「イルカ、見つけたくないか?」
「こんなとこにはいないわ」
「知ってる」
「でも・・・・・」
「うん?」
「見つけられたら素敵ね。イルカ」
「うん」
イルカはこんなところにいない。もっと南で、五月でも水がこんなに冷たくないところにいるのだ。このビーチを端から端まで探したってイルカは見つからない。魚を探すみたいに容易じゃない。来るなら今日じゃなく、もっと夏の盛り、暑くならないと。また来ればいいことなのかもしれないけど、でも私にはまた今日みたいにピクニックに行くことが、なぜか想像できない。
彼が帰ってきてしばらくになる。クラウドは最近本当に明るくなった。笑う回数が増えて、感情を少しずつ露出させるようになった。子どもたちと遊んだり、ついこの間は本を読んでやっていた。
それでも私はどうやら、なんとなく安心しきってないのかもしれない。信じてないわけではない。こんなふうに穏やかにみんなでどこかへ行って見たいと思ったのは、誰よりも私だったのに。そしてこれからも。
ずいぶん遠くから子どもたちがこちらを呼んでいる。気がつくと二人はあんなに遠くにいた。魚はあちらにいるのだろうか。大きく手を振って、こちらをうながしている。キラキラした声が私たちを呼んでいた。
「なあ」
「何?」
「チョコボファームにな」
「うん」
「大きなひまわり畑があって、夏の盛りはきれいだそうだ」
「うん」
「その時期になったらそこへ行こう」
それで、そのときここにも来よう。
そういって彼はまた笑った。
その彼の笑顔をみて私は不意に泣きそうになった。
「うん」
彼に悟られないように顔を伏せた。もう一度、マリンの言った言葉を思い出す。『クラウドが笑うと、ひまわりが咲いたみたい』。
でも目の前にいる彼は、私がそんなこと考えてるだなんてこれっぽっちも知らない。
クラウドは子どもたちに向かって叫んだ。
「あんまり遠くに行くなよ!」
―――――――はーい。
そういって子どもたちはまた遠くへ駆け出していった。
「あいつら、全然聞いてないな」
「追いかけなきゃ」
「そうだな」
ティファ、行こう。
そういって彼は私の手を握ったから、本当に泣いてしまうかと思った。彼の手は現実的にぬくもりを帯びていた。
マリンの言うとおり。クラウドが笑うと、そこに太陽の光が咲いたかのようだった。
―END―
長いこと単語だけでひろしまの頭の中を漂っていた話のひとつです。文章にするって難しい。もうちょいボリュームのある作品になれる可能性はあったと思う。ここからまたいろいろ派生できたらいいかもしれない。書き上げたのは4月ですが、5月と表記していたのでハードディスクの中で寝かせたり添削していました。5月になったのでようやくうpです。