The conversation

 

 
 
何でこんなことしなきゃいけない。
 
穏やかさと透明度のあるバラムの海特有の青さがまぶしい。雲がのんびりと眼前でぷかぷかしている。絶好の釣り日和だ。でもあいにく釣りは好きじゃない。
 
何でこんなことしなきゃいけない。
 
事の理不尽さに、今は吹いている風の爽やかさにすら腹が立つ。俺はバラムの桟橋で釣り糸を垂らしていた。もちろん、釣り趣味もなければ経験もないのでまったく釣れない。
 
「おい」
 
後ろからよく知った声がかかった。そう、一番腹が立つのはこいつだ。
 
「なんだよ」
 
「釣れてんのか、それは」
 
よいしょ、と腰をおろして釣り道具をがちゃがちゃ取り出している音が聞こえる。何が嬉しくてこいつと背中合わせで釣りしなくちゃならないんだ。
 
「見て分からないのか、ばか」
 
「釣れてないほうが馬鹿じゃないのか」
 
「何も好きでやってるわけじゃない」
 
「だったら?」
 
「変な言葉遣いの男と女が、ここでならよく釣れるから待ってろだと」
 
「それで、よく釣れたのか?」
 
「見て分からないのか、ばか」
 
サイファー、俺はこいつが嫌いだ。つれない釣りよりもずっと。
 
「俺もここがよく釣れるって聞いてな」
 
「何が釣れるだよ」
 
「さあな」
 
何なんだこいつ。のらりくらりしやがって。こいつのこういう態度と言葉のせいで俺の今日の一日が台無しになるってこと分かってるんだろうか。分かってても分かってなくてもムカつく。
 
「最近、どうだ?」
 
「どう?何がだ」
 
「お前がさ」
 
「何が言いたい」
 
「噂、聞いてるぞ。魔女の騎士」
 
最悪。まさかこれが聞きたいがためにこんなところに呼ばれたのか?背中の後ろでサイファーがくつくつ笑ってるのが聞こえる。笑われるようなことをしたつもりはないが、こいつのこの態度に感情がかき乱されるのを抑えられない。
 
サイファーはそれを気づいているんだろうか。滑らかにそして楽しそうに話している。
 
「リノアとお前、町中の噂だ」
 
「町中?どうせ3、4人だろ」
 
「だったら自分で確かめてみろよ」
 
「お前、何しに来た」
 
「釣りさ」
 
お、釣れた。サイファーの得意げな表情が浮かんだ。あごを少し上に傾けた、酷薄そうな表情。しかし背中を向けているから、本当はどうなってるかなんて分からない。
 
「それで、どうなってんだよ」
 
「だから何が」
 
「どこまでいったか聞いてんだよ」
 
俺は思わず立ち上がってこのまま帰りたいと思った。でもそれはこいつに言い負かされた感じかするからしない。でもありのまま答えるのは嫌だし、そうする義理もない。
 
「下品なこと聞くな」
 
――――――ハッ。
 
どうやら鼻で笑われたようだ。可笑しそうな声がすぐ後ろから返ってくる。
 
「下品、だって。ああ、たしかにそうかもな。俺たちガーデン生に品なんて無いな」
 
「お前と一緒にするな。それに俺もお前もガーデン生じゃないだろ」
 
「同じ穴のっていうだろ」
 
「同じじゃない」
 
「どうだろうな」
 
お、また釣れた。
 
俺は首をひねった。魚はのらりくらりに釣られているようだ。
 
「ああ、でも下品なこともあったってことか、お前ら」
 
「サイファー」
 
「何だ?」
 
「お前だけだ。会話してるだけで殺してやりたいと思う奴」
 
「ハッ」
 
また鼻で笑われたようだ。俺ももちろん本気じゃないがこいつといて平静でいられたためしがない。
 
「それは光栄だな」
 
「黙ってろよ、マジで切れそうだ」
 
「殺してやりたい?」
 
「当たり前だ」
 
「当たり前、だって?」
 
「ああ」
 
「じゃあ、やってみるか」
 
「ふん」
 
俺は釣りを続けた。お互いこれが当たり前になっている。でも最近は落ち着いたほうだ。前なら本気で剣を抜いていた。まったく、これも魔女のおかげか?
 
「そっちはどうなってる」
 
「どう、とは?」
 
「魔女の騎士を引退したあとだ」
 
「ああ?」
 
「まさか、隠居とか言うなよ」
 
「いや、派手な釣り戦士だ」
 
「何だよ、進歩してないな」
 
「どっかの女の尻に敷かれてるやつとは違う」
 
本当にいらいらする。以前は理由もなくムカムカして、こいつとのバックグラウンドが分かればそれは解決すると思っていた。でも記憶が大体戻ってきても変わらない。こいつがムカつく理由はこいつが嫌いだからで、こいつが嫌いな理由はこいつがムカつくからだ。
 
気づくと自分の拳が握り締められていた。どうやら右手は殴りたがっているらしい。左手だってそうだ。息をついて冷静になろうとする。そんなことをしているうちに背後の状況が変わった。
 
そろそろかな、とサイファーが道具を片付け始めたのだ。来てすぐにまたどこかにいくなんて冗談だろうと思ったが、サイファーは立ち上がって服をはたいている。俺はちょっと焦った。
 
「おい」
 
「何だよ」
 
「話って何だ?」
 
「話?」
 
逆光でよく顔が見えない。サイファーは首をひねって明後日の方向を向いていた。
 
「俺もここでよく釣れるって聞いてな。実際よく釣れた」
 
「・・・・・・・・」
 
「じゃあな、スコール君。またここで釣りしようぜ」
 
「二度としない」
 
後ろ手を振りながら帰っていくサイファーを俺はしばらくぼんやり見ていた。
 
いったいあいつは何がしたかったんだ。釣りしにきたわけじゃなさそうだし、わざわざ俺の近況を聞こうとしにきたわけでもないだろう。とりあえず、今日はもう帰ろう。
 
目の前で釣りの浮きがぷかぷかと浮いている。
 
 
 
―END―
サイファーと話すだけという起伏のない話。喧嘩上等ですか、みたいな話になっちゃってまったくすみません。まあ、私たち広島県民はみんな喧嘩口調ですので気を悪くなさらないでください(そっちじゃないww)
前からサイファーとの絡みを書きたいと思ってました。結果がこれです。ちょっとノリで書いたのもいけなかったです。反省します。
 
 
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