休日の予定のない時間が嫌いだから、午前中はずっとトレーニングをしていた。リノアは「ゆっくりすればいいのに」とぼやいたが、何もしないでいるのは性に合わない。
午後に入り、昼食を済ませ、部屋に戻ってシャワーを浴びた。普段は昼間からシャワーなんてしないけど、今日は汗をかいたし、それに暇だし。でも実は昼間のシャワーも嫌いだ。明るいうちからシャワーを浴びるなんていかにも無能で怠惰な感じだから。昼間からシャワーを浴びれるのは暇の証拠だ。
シャワールームから出てくると、リノアがベッドに腰掛けて菓子を食っていた。壁にかかった時計を見る。時刻14時20分。おやつには早いんじゃないのか?
「太るぞ」と言った。本気の冗談。
「リンダがね」リンダって誰だ。
「ちょっと太ってるほうが男にはぐっとくるって言ってたよ」
「ふーん」でもリンダって誰なんだ?ガーデンにそんなヤツがいたっけな。
リノアの隣に腰掛ける。テレビがどこかの土地の動物の生態を放送している。ぼんやり見ていたら、口元にリノアが菓子を差し出してきた。チョコレートのスナック。
「はい、あーん」
するか。
「あーんして」
降参、口をあけた。シャワー浴びた直後にチョコ菓子。これも普段からしない。
「お、めずらしいね」
「何が」
「こういうの、嫌いじゃなかったっけ」
今日やったことはだいたい。
「嫌いだ」でもそういった後、なぜか可笑しくなって笑った。
「でも、嫌じゃない」
当然リノアは笑った。「意味わかんない、矛盾してるよ」
たしかにそう。でもそんなつもりはない。言葉にするとそう聞こえるだけ。
「今日は機嫌がいいんだね、スコール」
そうかもしれない。口の中でチョコレートが溶けている。甘い。
テレビのディスプレイは、肉食獣の捕食シーンを映しつづけている。ライオンが、シマウマの喉に食らいついている。
隣で見ているリノアが悲痛な声を出した。体を何度もねじっている。捕食されているのか?
「ああ、ああ、痛いってば」
「どこか痛いのか?」
「ちがう、シマウマよ」
「あんたが痛いわけじゃないだろ」
「だって、想像してみて」
そう言って、ひざの上に乗ってきた。
両肩をつかまれ、後ろにぐっと、
押し倒された。
馬乗りになりながら真剣な顔つきで彼女は言った。「喉を食い破られるのよ」
喉に噛みつかれた。
固く、ごつごつとした歯の感触。とがった犬歯が喉仏に当たるのを感じる。温かい息。シマウマはこんな風に喉を食いつかれて死ぬ?
「ちがう」
今度は俺の番だ。リノアを引き剥がして、反対側へ押し返し、驚く彼女にまたがる。
「喉を食い破られるんじゃない。あれは窒息死させてるんだ」
リノアが少し笑った。彼女にとっては笑える内容だったようだ。「真剣ね」
「ああ、知ってたか?」
「何を」
「ああいう肉食獣って、あんまり喉とか足とかは食べないんだ」
「じゃあ?」
彼女の腹部に手をあてがった。やわらかい。
「内臓みたいに柔らかい部分を好んで食べるらしい」
「うええ」
嫌そうな顔。やな事聞いちゃった、そうつぶやいてにらんできた。でもきっとそんなに怒っていない。
馬乗りの体勢から体を離した。ベッドサイドにもう一度腰掛けなおす。テレビの中のライオンがシマウマにがつがつと喰らいついていた。
「食べないの?」
後ろで寝転がったままのリノアが言った。腕を大きく投げだしている。気がつくと、さっき手に持っていたスナック菓子の袋が床に転げ落ちていた。
「何」
振り返って少し驚いた。表情が先ほどと違っている。じゃれつくときのような顔じゃない。
「獲物を」
彼女は獲物の笑顔をした。
俺は床に落ちている袋を拾い上げて、甘いやつを口に放り込んだ。
「食べない」
「えー、なんでよ」
まったく、何言ってるんだ。こういうときは黙ったほうがいい。
「しないの?」
これにはちょっと笑った。
「しない」
「なんで」
不満そうな口に菓子を含ませてやった。これで黙るはず。
「昼間っからセックスするヤツがあるか」
リノアがげらげら笑った。時間なんて関係ないよー、なんてことを言っている。
「リンダがね、言ってたよ。そういう空気になったら、もうガッといっちゃえって」
「なあ」
「何?」
「リンダって誰だ?」
リノアはまた大笑いした。そんなことも知らないの?と言われても、それでも分からない。
「最近テレビとかに出てる、タレント」
「知らない」
「カリスマなんだよ。『100%魅惑の魔女』とか、毎週見てるし」
何だそれ。がっくりきた。
「魔女なのか?そいつ」
「違う。でもすごくきれいなんだよ」
俺はテレビのほうを見た。食事を終えたライオンが、口の周りの血を、舌で舐め取っている。
―END―
リンダって誰だー。ちょっと思いついた勢いで書きました。短いですねー。
私自身がこんな果てしなく馬鹿で甘い(甘いのか?)話を書くことなんて想像してませんでしたよ。FF8は固く書いていこうと思ってたんで。
でもたまにはこういうのもいいかもしれませんね。本編もこんな感じの展開がいくつもあった気がしますし。
焦るといいものが出来ないかもしれないので、これからの創作はマイペースにいきます。