イデアは微笑んだ。花火がとてもきれいだと思ったから。今の自分がとても幸せだと思ったから。
晴れていて本当に良かった。昼間に花火に誘われた後、雲行きが怪しくなったから心配したけれど、夕方を境にきれいに晴れた。今は適度な風があるだけ。
ガーデン内のでの火薬の使用は教習や、その他の特別な場合以外認められていないから、バラムのビーチで花火をした。おだやかな波の音が心地いい。
もうすぐ八月が終わるから、そういって誘い出してくれた子どもたちのことを思い出した。そのときの表情が昔とちっとも変わらないのが嬉しくて、少し切ない。
イデアは花火を楽しんでいる子どもたちを少し離れたところから見ていた。こうして距離をとって子どもたちを眺める自分も、花火をしている子どもたちの行動も、昔とさほど変わらない。ただ、リノアだけは、昔を知らないからなんとも言えないけど、きっとこの子も昔とたいして変わらないだろう。
手持ち花火を振り回して騒いでいるゼル。それをしかりつけるキスティス。それを見て笑いながら打ち上げ花火に火をつけているセルフィとアーヴァイン。アーヴァインは打ち上げ花火のほうが興味があるようだ。リノアはみんなをスコールの隣で見て笑っていた。輪の中からわずかに離れたところにいるスコールは、線香花火に熱中している。
本当に、変わらない。でも、ちゃんと大きくなってくれました。みんな私のかわいい子どもたち。
遠くで離れて眺めているイデアに気づいて、リノアが輪の中に引き入れた。ニコニコしながら花火を手渡してくれるので、一瞬だけ、この子に魔女の力を受け継がせてしまった事実を忘れた。そんな罪悪感がイデアの中にはある。それを忘れさせるような明るい笑顔を、リノアはよくみせる。顔を近づけて、スコールはやっぱり気づいてないのかな、とささやいてくる。
さっきからゼルの興奮が収まらないようだ。花火を振り回すだけでなく、あたりをぐるぐると走り始めた。派手に火の粉が飛び散る。ちょっと危ない状況に、悲鳴と怒声があがった。騒いでないのはスコールだけで、彼は線香花火を二本いっぺんにくっつけて火を点け始めた。線香花火を大きくする魂胆らしい。
打ち上げられた花火が上空で銃弾のような音を立てて咲いた。とたんに全員が驚いて上を見上げた。
きれい、とセルフィが声を上げて拍手した。アーヴァインが嬉しそうな顔をする。スコールは、また線香花火に熱中し始めた。今度は3本同時にするようだ。
ゼルはまた調子にのり、花火を大量に手に持って、火をつけ始めた。目が痛くなるほどの光と、はげしい煙が出て、さすがに止めなくてはと思い、イデアはゼルに駆け寄ろうとした。しかし煙がはげしすぎて近づけない。
危ないから、と言ってリノアに手を引かれた。その横を誰かが走り抜けていって、次の瞬間、ゼルが頭から水を浴びせられた。
びっくりして目を丸くするゼルと、さらにびっくりしてバケツを落としたキスティスがいる。どうやら花火の火を消そうとして、ゼル本体のほうにバケツの水をかけてしまったらしい。イデアはこのとき、珍しく大きな声で笑った。ハンカチを取り出して、ずぶ濡れになったゼルを拭いてやる。予想外の出来事に、キスティスはべそをかいていた。彼女にも声をかけなくては。
大きくなっても手が掛かるのが、何よりも可笑しかった。
仲直りをさせてやって、もう一度花火を持たせてやろうとしたら、すでに手で持つタイプはなくなっていた。キスティスが激怒した。ゼルが何度も殴られているとき、スコールは3本同時の線香花火を落としてしまったらしく、がっかりして肩を落としていた。
そのあとはみんなで打ち上げ花火で騒ぐ。子どもたちの楽しそうな悲鳴は私を安心させた。はしゃぐ声が大人になっているとあらためて気づいた。先ほどはまだ手が掛かると思ったとはいえ、火遊びをさせても心配のない年齢に、みんな至っているのだ。だから燃え尽きた花火は誰かが丁寧に処理している。
打ち上げ花火が終わるころ、またキスティスが怒り始めた。怒られているのはスコールだ。線香花火を一人で全部使い切ってしまったからだ。最後の締めは線香花火なのに、と誰かがぼやいて、でも今日はしょうがないね、と誰かが返した。
そう、今日は。
いいタイミングで、車がこちらに走ってきて、停車する。仕事を終えたシドが、車から出てきて、手を振った。もう片方の手にはプレゼントの大きな袋を持っている。
イデアは叱られてしょんぼりしゃがんでいるスコールの手を引いて、立ち上がらせた。驚く彼がプレゼントを受け取って、全員の拍手がわく。今日だけの歌を歌う。それぞれが言葉を贈って、リノアが彼の頬にキスをする。また拍手。
無表情だけど戸惑っているスコールに、
「今日は8月23日よ」
と声をかけて、子どもたちに帰る支度をうながした。
ガーデンには、今日のために用意したケーキと、エスタから送られてきたプレゼントが2つある。
―END―
短っ!計算したら2000文字もなかったですよ。まあ、花火なんてパーッと始まって、すぐ終わっちゃうものだと思いますので、これぐらいで満足です。線香花火ってくっつけて大きくしたいですよね。私はだいたい3つで元気玉の部分を落っことしちゃってましたね。
前からイデアと花火のネタを書いてみたかったので、まるでインスタントな話でもないんです。ただ、誕生日に関しては、盛りました。サプライズネタです。
実は季節独特のイベントネタって、書くのに抵抗あったんです。クリスマスとか、ヴァレンタインとか。なんとなく白々しくなっちゃいそうで。だからあえて『ハッピーバースデイ』とか、『誕生日』とかいうキーワードは、本文中で避けています。結局誕生日満開なラストになっておりますがww
でもあとがきなんで、書かせていただきます。
スコール、誕生日おめでとう。