その金髪が目立った違いで、どこを彼と似ていると思ったのか分からない。顔立ちも、声も、体つきもまったく違う。
でもちょっとしたしぐさが、口調が、彼を思い出させるのだ。
ぼんやりとした陽炎のように、見えるのだ。だけどそれはきっかけにすぎない。
旅が終わったら打ち明けよう。あなたのことが好きだと。
エアリスは微笑んだ。くすぐったい心のうずき。
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ここは薄い青色の光であふれている。空とはまったく別の透明感。海の中のようにも思えた。階段を下っていく。
シドはもう一度飛びたいと思っていた。だけど今の行動はまったく逆で、しかも嫌悪がつきまとっていた。
なぜこんなに不快なのか。
いわゆる虫の知らせだと気づいて、約1分。
階下に到達する。そこで見つけた彼女は以前、空とはどんなものかたずねてきたことがあった。旅を終えたら、そこにみんなで行けるのかと。
連れて行ってやりたい。もう一度飛びたい。
だけどざわざわと胸騒ぎがしていた。槍の柄を握る手に汗がにじんでいる。
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もう一度にっこり微笑んでくれるなら、私はもうそれだけで十分だ。旅をやめてふたりでどこかで静かに暮らそう、ねえ。
しゃがみこむ彼女を見つけたとき、小さくそう思った。彼女は祈っているようなのだ。
クラウドが彼女のところに歩み寄っていく。
別人のような、彼の表情。白く、作り物みたい。
ふらふらした動き。
やめて、何をしてるの。どうしたいの。嫌な予感が止まらない。はげしい警鐘。
彼は剣を手にしている。少し苦しそうな表情をしたかと思ったら、剣を頭上に振りかぶっていた。
ティファは叫びだす。
「クラウド!」
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どうして剣を握っているのだろう。
気がつくと目の前で微笑んでいる人がいる。
おだやかで、おだやかで、おだやかだ。
それが突然、
どん、と鈍い音。彼女はのけぞる。翡翠の目が閉じられ、
「・・・・・・・・・・・・・」
クラウドは「は」と口を開けた。はげしい鼓動。鈍い理解と、衝撃。体の中を、駆け巡る。
ゆっくりと倒れる彼女に駆け寄ってみると、体はまだ十分温かい。ゆさぶっても決して起きてはくれないけれど。
ああ、お願いだから、起きてくれ。悲しくて、体中が痛いよ。
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ディスプレイ越しに映る光景に、あっと驚いて腰を上げた。気がつくと手を伸ばしている。ここから伸ばす手は、冷たい液晶画面にぶつかり、こつんと小さな音を立てただけ。
「ああ、だめだ!」そう叫んで、まわりの同僚たちがいっせいにこっちを見る。だけどそんなことどうだっていい。
気がつくと泣き出している。なんだなんだと野次馬が来て、だれかが「疲れているんだろう」と適当にそれを追い払っている。
もうこの仕事にかかわりたくない。なんだってこんなことに。
だけど行動は対照的で、指は機械を操作している。必死で戦っていた。
ケットシーが、リミットブレイクする。お祭りのように派手な炸裂音。
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ヴィンセントは唇を噛んだ。長い時間かけて見た悪夢の上書き。きっと再び眠りにつくとき、何度も自分を襲うだろう。
今でも憶えている。銀色のキラキラした物体が落ちてきて、それが何か認識できたときにはすでに自分は後悔に犯されていた。それははっきりと、鈍い痛みとともに、フラッシュバック。
衝撃で、エアリスは絶命した。即死だったから血が流れなかったのが、残された人間の唯一の救いだ。でも、スラムで花を売っていた女がこんな死に方していいはずがなかった。
もしかしたら涙が流れるかもしれない。そう思って自分の目を意識したものの、なんともない。要するに、そんな余裕すらないのだ。しかし指が震えていた。銃の撃ちすぎではない。
戦闘が終わって目の前にあるのは、もやもやとした煙と、うなだれるメンバーたちだった。
クラウドが彼女の体を抱き上げて、来た道を逆に歩みだした。ゆっくり、ついていく。
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刀、冷たかっただろうな。水の中も、きっと寒いはず。
バレッドは見送りながらそんなことを考えていた。死んでも生きていて欲しい。そんな矛盾した考えが浮かんだ。
自分にも娘がいる。そして彼女にも親がいる。そう思うとやりきれなくなる。マリンがこんな死に方をしたなら、自分は気が狂うだろう。決して正気じゃいられない。
彼女の事情をすべて知っているわけではないが、苦労の多い人生だったと思う。せめて彼女の眠りだけは安らかであって欲しい。
もう少しここにたたずんでいたい気もするけど、長居はできない。ようやく歩き出す。立ち止まることも必要と言うけれど、今立ち止まっても何にもならない。
おぼれたように呼吸がくるしい中、これから自分に出来るのは、ただもがくことだけではないだろうと確信している。冷たく凍った世界に踏み出しても、人は生きていける。
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メンバーはテントで休んでいる。こっそり抜け出して、ぼんやりしていた。
こぉーん
と耳の奥で鳴っている音があって、
ああ、
これはエアリスが大事にしていた彼女の母の形見の白マテリアが、床に落ちたときの響きだ。そう気づいて、レッドは悲しくなった。
自分の中にこんなに深く淡く薄く残っているなんて、
だったらもっと強く残って欲しい。表面化して、大きな音で、自分を苛めて欲しい。忘れられないほど。
染み入るような静かな夜の真ん中で、レッドの吐息が白く凍りついた。今夜は眠れそうにないだろう。
でもそれも悪くはない。今夜は夜通し彼女を想っていよう。
見上げた空に、星が震えるように光っている。
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テントから離れた場所で、ユフィはわんわん泣いた。
だけどもう泣くのは今日で終わりだ。泣いていてももう昔には帰れないし、彼女は陰気さを嫌っていたから。彼女のためにも、これ以上涙は流せない。
きっと明日からも辛いことは重なるだろう。だけど負ける気がしない。お宝探しが目当てだった旅だけれど、これからは本気で戦ってみせる。
ぴしゃりと頬を叩いて喝をいれる。
とにかく、もう明日に備えて眠ろう。眠れなくても、横になるぐらいでいい。
テントの前まで戻ると、小さな炎がともっていた。どうやら抜け出してきたヤツが自分以外にもいる。
自然と笑みがこぼれて、一緒にこぼれた涙をぐっと拳でぬぐった。
彼女が大好きだった。そしてこれからもずっと大好きだ。
―END―
はじめて書く全キャラの話です。クラティでもない上に死ネタです。ごめんなさい。
春が来て地元では梅や野草が花を咲かせ始めたのがきっかけで書きました。私のイメージではエアリス=花なんです。
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